2008年03月26日
家出少年記②
ただひたすら、
前へ前へ自転車のペダルをこぎ続ける。
時たま前方に現れる青看板だけを道標に。
高校までの通学路。
あれほど重かった自転車のペダルが嘘のように軽い。
あれほど憂鬱だった心が嘘のように晴れていた。
見知らぬ道を、
見知らぬ町を、
ただひたすら颯爽と走り抜ける。
「高校生活の3年間は人生にとって大変貴重な時間です」。
「ぜひ皆さん夢中になれるものを探してください」。
高校の入学式の日に、
偉そうに語っていた顔も名前も思い出せない人の言葉。
皮肉なことに、
僕は高校生活から開放されて初めて夢中になれるものを見つけた。
ふと気がつくと、
1日だけで200km。
僕は熊本県にいた。
突然の空腹感と疲労感に襲われた僕は、
早朝に購入したカロリーメイトにむしゃぶりつく。
案の定。
たかが200円弱の栄養補助食品では、
もちろん空腹感を抑えることができるわけもなかった。
大学前の無人駅の駐輪所に自転車を止め、
駅内の木製ベンチに荷物を置き座る。
動く度に、
木製ベンチの木屑がボロボロとコンクリートの地面に落ちる。
リュックサックの中から、
ジャンバーを取り出し頭からはおり、
膝を抱えこむようにしてベンチに横になり瞼を閉じようとした。
ふと前を見ると。
線路を挟んで大学のフェンス越しにある一本の桜が、
駅の薄明るいライトに照らされて光っていた。
まるで、
一本だけがスポットライトをあびるように。
僕の人生の中で、
一番美しい桜を見た瞬間だった。
つづく
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