2008年04月14日
家出少年記⑤
彼女との話に夢中になっているうちに、
気がつくと空は大分白みがかっていた。
一人のホラ吹き家出少年と、
一人の熊本ホステスは夜通し話し続けていたらしい。
お互い名前も知らぬまま。
どこか遠くの方で、
新聞配達のカブが激しくギアチェンする音が聞こえたのと同時に、
「そろそろ帰ろうかな」と、彼女は言った。
ありもしない作り話をでっちあげすぎたせいか、
ノンストップでママチャリを漕ぎすぎたせいか、
僕もかなり疲労困憊だったが、
ふいに彼女にお礼がしたいと思った。
あんなに怖かった夜を、
あんなに楽しい夜にしてくれたお礼に。
と思ったが、
何かあげるものもなかったし、
お金を『はい、さんきゅー』とあげるのもなんだか味気なかった。
そもそも、
彼女はホステスだ。
『“もらう”という行為には、かなりの免疫があるに違いない』と、
今考えると失礼極まりないことを思った僕は、
無人駅のあの桜の木を見せることにした。
二人とも話し疲れていたのか、
無人駅までの道のりはほぼ無言だった。
約20分。
だいぶ空は明るくなってはいたが、
あの桜は無人駅のライトに微かに照らされていた。
「ね、綺麗でしょ、お礼に」と、
僕が桜を指差し彼女の方を見ると、瞳には涙が溢れていた。
『げっ!しまった!やらかした!』
『お金を選択するべきだったのか!』
『そもそもホステスに桜ってなんじゃ!ロマンチストか!』
と、自分の過ちを悔い改めていた。
だが、
彼女は突然一言、
「ありがとう」と言って、
桜をじっと見つめていた。
無人駅の周辺にも、
ちらほら人の気配がしだしたので、
彼女と僕は別れることにした。
「それじゃ~」と、僕。
「うん、じゃ~ね~」と、彼女。
突然、僕は彼女の名前を聞くのを忘れていたのを思い出した。
「あ!名前」と、僕。
すると、
彼女は懐からごついビトンの名刺入れを取り出して、
その中の一枚を僕に渡し去っていった。
彼女の後ろ姿をしばらく見送ったあと、
名刺を見てみると、
表には熊本のスナックかなにかの店名と、
住所、電話番号が、金色の文字でデカデカと書かれていた。
裏には、
なんの順番かよくわからない番号と、
名前が書かれていた。
その時、僕はハッとした。
彼女の源氏名は、「さくら」だった。
【つづく】
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コメント
早く続きが書きたい時間が欲しいです。
Posted by: ブログ管理人 | 2008年05月02日 15:06