« 家出少年記④ | メイン | 家出少年記⑥ »

2008年04月14日

家出少年記⑤

400.96E98DF71%5B1%5D.jpg


彼女との話に夢中になっているうちに、
気がつくと空は大分白みがかっていた。


一人のホラ吹き家出少年と、
一人の熊本ホステスは夜通し話し続けていたらしい。

お互い名前も知らぬまま。


どこか遠くの方で、
新聞配達のカブが激しくギアチェンする音が聞こえたのと同時に、
「そろそろ帰ろうかな」と、彼女は言った。


ありもしない作り話をでっちあげすぎたせいか、
ノンストップでママチャリを漕ぎすぎたせいか、
僕もかなり疲労困憊だったが、
ふいに彼女にお礼がしたいと思った。


あんなに怖かった夜を、
あんなに楽しい夜にしてくれたお礼に。


と思ったが、
何かあげるものもなかったし、
お金を『はい、さんきゅー』とあげるのもなんだか味気なかった。


そもそも、
彼女はホステスだ。


『“もらう”という行為には、かなりの免疫があるに違いない』と、
今考えると失礼極まりないことを思った僕は、
無人駅のあの桜の木を見せることにした。

二人とも話し疲れていたのか、
無人駅までの道のりはほぼ無言だった。

約20分。

だいぶ空は明るくなってはいたが、
あの桜は無人駅のライトに微かに照らされていた。

「ね、綺麗でしょ、お礼に」と、
僕が桜を指差し彼女の方を見ると、瞳には涙が溢れていた。

『げっ!しまった!やらかした!』
『お金を選択するべきだったのか!』
『そもそもホステスに桜ってなんじゃ!ロマンチストか!』
と、自分の過ちを悔い改めていた。


だが、


彼女は突然一言、
「ありがとう」と言って、
桜をじっと見つめていた。

無人駅の周辺にも、
ちらほら人の気配がしだしたので、
彼女と僕は別れることにした。


「それじゃ~」と、僕。
「うん、じゃ~ね~」と、彼女。

突然、僕は彼女の名前を聞くのを忘れていたのを思い出した。


「あ!名前」と、僕。


すると、
彼女は懐からごついビトンの名刺入れを取り出して、
その中の一枚を僕に渡し去っていった。

彼女の後ろ姿をしばらく見送ったあと、


名刺を見てみると、
表には熊本のスナックかなにかの店名と、
住所、電話番号が、金色の文字でデカデカと書かれていた。

裏には、
なんの順番かよくわからない番号と、
名前が書かれていた。

その時、僕はハッとした。

彼女の源氏名は、「さくら」だった。


【つづく】

トラックバックURL

このエントリーのトラックバックURL:
http://www.plea-di.com/mt/mt-tb.cgi/45

コメント

早く続きが書きたい時間が欲しいです。

コメントする

(初めてのコメントの時は、コメントが表示されるためにこのブログのオーナーの承認が必要になることがあります。承認されるまでコメントは表示されませんのでしばらくお待ちください)