2008年06月07日
家出少年記⑥
源氏名「さくら」。
女心もクソもわかっていなかった少年も、
彼女の涙の理由が少し理解できた。
手元の金ピカ名刺をしばらく見つめたあと、
「さくら」を探したが彼女の姿はどこにもなかった。
ライトが消えた無人駅周辺にも、
昨夜の静けさが嘘だったように、
学生らしき人たちで賑わいはじめる。
あの桜の木も夜の輝きを失っていた。
それはまるで夜の自分の存在を隠しているようにも思えた。
さくらと桜に心の中で一言呟き、
僕はママチャリとともに今日の寝床を探すためその場を去った。
無人駅から歩くこと30分。
日が当たらないカラオケショップの駐車場の隅っこ。
そこが僕の2日目の野宿場所だった。
寝るのに丁度いいサイズの薄汚れたダンボールを見つけ、
それを布団代わりに敷きリュックを枕に横になる。
食べ捨てられたプラスチックの弁当箱、
アリが集ったスナック菓子の袋や空き缶の山。
視線の先にはゴミ、ゴミ、ゴミ。
薄汚いダンボールの上,
ゴミと同じ視線で僕は深い眠りについた。
数時間後…。
目が覚めるとあたりはだいぶ薄暗くなっていた。
起き上がろうとした瞬間突然体中に激痛が走る。
ママチャリ200km激走に僕の体は耐え切れなかったらしい。
ヒョコヒョコ歩きで、カラオケショップの離れのトイレに行く。
歩く度に体の節々に激痛が走る。
トイレのドアを開け、
所々錆付いた水道の蛇口を捻り顔を洗い、
トレーナーの袖で水を拭い鏡をみる。
鏡の前にはもう一人の自分の姿が映っている。
しばらく家出少年の姿を堪能した後、
激痛に耐えながら寝床に戻る。
その時だった。
さっきまで寝ていたゴミの山の中に、
妙な違和感をおぼえた。
ない。
リュックがない。
所持金2万円ちょっと、
所持品もろもろがはいっていたリュックサックが、
ポッカリとその存在を消していた。
『………あれ?』。
世間知らずの家出少年は、
その時はじめて社会の厳しさを知ったのだった。
【つづく】
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