2008年06月07日

家出少年記⑥

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源氏名「さくら」。


女心もクソもわかっていなかった少年も、
彼女の涙の理由が少し理解できた。

手元の金ピカ名刺をしばらく見つめたあと、
「さくら」を探したが彼女の姿はどこにもなかった。

ライトが消えた無人駅周辺にも、
昨夜の静けさが嘘だったように、
学生らしき人たちで賑わいはじめる。

あの桜の木も夜の輝きを失っていた。
それはまるで夜の自分の存在を隠しているようにも思えた。

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2008年04月14日

家出少年記⑤

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彼女との話に夢中になっているうちに、
気がつくと空は大分白みがかっていた。


一人のホラ吹き家出少年と、
一人の熊本ホステスは夜通し話し続けていたらしい。

お互い名前も知らぬまま。


どこか遠くの方で、
新聞配達のカブが激しくギアチェンする音が聞こえたのと同時に、
「そろそろ帰ろうかな」と、彼女は言った。


ありもしない作り話をでっちあげすぎたせいか、
ノンストップでママチャリを漕ぎすぎたせいか、
僕もかなり疲労困憊だったが、
ふいに彼女にお礼がしたいと思った。


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2008年04月10日

家出少年記④

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深夜に道路のど真ん中で、
大の字に寝そべっている一人の少年。


それを覗き込む一人の女性。


今考えるとあんなヘンテコな光景は、
あの時あの場所で世界中を探しても僕等だけだったに違いない。
          
「何やってんの」と、突然彼女は僕の顔をみて言った。
その問いに少し戸惑いながら、「何やってんすかね」と答える僕。
その答えが可笑しかったのかなぜか彼女は僕の顔を見てちょっとだけ笑った。

彼女は熊本市内で働くホステス。
仕事がひと段落し、家に帰る途中で道路の上の少年を見つけたのだそうだ。


あんな真夜中普通の女性なら男に遭遇するのさえ避けたいはずだが、
なぜか彼女は道路の上の少年に興味を持ったらしい。

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2008年03月31日

家出少年記③

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この季節にベンチの上で毛布にくるまって寝っているホームレスを見ると、
あの日の無人駅での夜の辛さが僕の脳裏に蘇る。

無人駅での夜は、
予想以上に寒く、長く、静かだった。

何度寝ても、
何度覚めても、
一向に夜が明けない。


時間を確認しようと思ったが、
お気に入りのGショックは昼間自転車で走行中にどこかに落としてしまったらしい。

時間を確認するために、
駅の近くにあるコンビニに入ったのだが、
今考えると明けない夜が怖かっただけだった。

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2008年03月26日

家出少年記②

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ただひたすら、
前へ前へ自転車のペダルをこぎ続ける。

時たま前方に現れる青看板だけを道標に。


高校までの通学路。

あれほど重かった自転車のペダルが嘘のように軽い。
あれほど憂鬱だった心が嘘のように晴れていた。

見知らぬ道を、
見知らぬ町を、
ただひたすら颯爽と走り抜ける。

「高校生活の3年間は人生にとって大変貴重な時間です」。
「ぜひ皆さん夢中になれるものを探してください」。


高校の入学式の日に、
偉そうに語っていた顔も名前も思い出せない人の言葉。


皮肉なことに、
僕は高校生活から開放されて初めて夢中になれるものを見つけた。

ふと気がつくと、
1日だけで200km。


僕は熊本県にいた。

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2008年03月19日

家出少年記①

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卒業シーズンがやってきた。


この時期になると思い出す。
9年前のあの日を・・・。

9年前、
僕は家出をした。

学校、センコー、クラスメイト、進路、
僕の周りを取巻くすべてに嫌気がさしていた。


今考えると、幼い、弱い、視野狭い。
だけど、あの時の僕には現実から逃げ出すしか術がなかった。

朝5時起床。


真っ暗な居間。
ばれないようにマメ電球だけをつける。


テーブルの醤油さしの前に、
「旅にでます」とだけ手紙に書き残し、家を出た。

お年玉の3万を握り締め、
親父がマウンテンバイクと間違えて買ってきた、
緑の塗装が剥げ落ちたママチャリに乗って。

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